身体の不思議について語る際によく聞くのが、
「生き物の身体というのは実に巧妙に作られていますねえ」
という感嘆の声だと思います。
本書を読めば、進化の歴史とは行き当たりばったり、その場しのぎと言ってもいいくらいの絶え間ない設計図の「書き換え」の結果であることを知るでしょう。
生命が誕生してからの悠久の時間の中では、進化は猛スピードで行われていること。
身体とは、決して工業製品のように最初から最後まで何らかの目的に沿って設計されたのではないということ。
時にミスを重ね、器官によっては偶然によって当初の目的からはかけ離れた機能を備えるに至っていることなど、
筆者は動物の遺体の解剖を通じて、生命がたどってきた5億年の進化の旅路に迫っています。
例として、本来骨とは身体を支持するためのものではなく、リンとカルシウムの貯蔵庫であったこと、肺とは呼吸器ではなく、魚の浮き袋であったことなどを紹介しています。
それらを面白おかしく紹介するだけならば、本書はただの「ためになるエキサイティングな科学読み物」ですが、筆者は四足歩行から二足歩行への劇的な変貌を遂げた人類を、「五十キロの身体に一四〇〇ccの脳をつなげてしまった哀しいモンスターなのである」と述べ、「次の設計変更がこれ以上なされないうちに、わが人類が終焉を迎えるという、哀しい未来予測」をしています。
加えて終章では我が国の学問を巡る絶望的状況にも警鐘を鳴らしています。
あらゆる生き物の身体を観るときに、単に「この筋は足を挙上して…」という点的理解をするのではなく、それが歴史的にどのような目的で設計され、どういう意味があって今の形を持つに至ったのか、一つ次元を加えて考えるようになるはずです。
そして、身の回りにいる魚、鳥、イヌ、ネコ、サル…あらゆる動物が5億年の謎に迫るヒントを与えてくれることを教えてくれる一冊でした。
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