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牛歩庵―鍼灸師・中国語医療通訳/翻訳者のblog

「鍼灸はなんで効くの!?」「ツボって何?」

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『脳が作る感覚世界―生体にセンサーはない―』

先日の記事にも書きましたが、私の勉強のテーマは「感覚」です。
臨床の現場で皮膚、神経に直接アプローチする鍼灸師として、これは生涯考え続けるテーマになることでしょう。

『脳が作る感覚世界―生体にセンサーはない―』(小林茂夫 著・コロナ社)という本を読みました。
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よく、温度や痛みを感じる感覚器を、脳に情報を伝える「センサー」に例えます。

サブタイトルでもわかる通り、著者は「生体にセンサーなど存在しない」と断言します。

センサーとは、外部の情報をそのまま感知して伝えるもの、例えば、赤いリンゴを見た時に、「赤い」という情報を感知するもの。これは一見当たり前のことのように思われます。

著者はこう主張します。
外部の世界から届くのはただの電磁波、化学物質などの「物理量」にすぎず、赤いリンゴから目に届く電磁波に色がついているわけではない。
私たちの五感とは、外部の情報をありのままに伝えるセンサーではなく、一定の基準(閾値)と比べて神経が興奮するか否か、1か0かを判断するための「比較器」である。

その電磁波を受けた受容器が脳にインパルス(電気)を送り、脳がそのインパルスを受け取ったときに初めて「赤い」という概念が心に生まれる。

つまり、私たちの周りに存在する世界には、色も、音も、においも、温度も存在しない。それ自体はただの物質、物理現象でしかない電磁波、化学物質などが神経細胞を興奮させ、興奮が脳に届いた時に初めて、私たちの心に感覚が生まれる、ということです。私たちが感じるあらゆる外部からの情報は、脳の中で起こっている現象にすぎない。

誰もが一度は考えること、まさに映画『マトリックス』の世界そのものですが、私たちに本当の「客観的な物理世界」の姿を確かめる術はありません。
これこそが色即是空の指すものでしょうか。

様々な実験を記述する部分はまず飛ばして、第8章から読み始めるとわかりやすいかもしれません。
今見えている世界をひっくり返してくれる一冊でした。

本書のように、これまでのフツウをあっさりひっくり返してくれる本、そんな本に出会えることが読書の何よりの楽しみです。


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手仕事の日本

 『手仕事の日本』柳宗悦(岩波文庫)という本を読んでいます。

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戦後まもなく(1948年)に出版された本で、北から南まで、全国各地の民芸品をただひたすらに紹介しています。
まだ読み終えていませんが、煙管、寄せ木細工、ひしゃく、火箸、箪笥、鯉のぼりや将棋の駒など、豊富な挿絵の掲載された、楽しい本です。
昔は家にもこんな道具がたくさんあったことを思い出します。

とても優しさのある文章は、読んでいるだけで、職人が丁寧にひとつひとつ作った工芸品の肌触り、においまでもがイメージできるような気がします。

最初に出版されたのが、1948年ですから、すでに失われてしまったものもあるのでしょう。

近頃の私のテーマも、「手を使う、体を使う」、ということです。
鍼灸はもちろん手仕事なので、手の感覚は常に磨き続けなければなりません。

他にも気に入った文章を書き写したり、読書のときもあえて音読をします。
一滴一滴、一文字一文字を体に染みこませるように。

「指先だけで何でも検索できてしまう現代、私たちはもっと自分の身体を云々……」

という流れになってしまいそうですが、白いノートが字で埋まっていくのが単純にうれしいし、声を出すのが楽しいのです。

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『人体 失敗の進化史』 を読んで

人体 失敗の進化史』(遠藤秀紀・著)を読みました。

 

 

身体の不思議について語る際によく聞くのが、
「生き物の身体というのは実に巧妙に作られていますねえ」
という感嘆の声だと思います。

 

 

本書を読めば、進化の歴史とは行き当たりばったり、その場しのぎと言ってもいいくらいの絶え間ない設計図の「書き換え」の結果であることを知るでしょう。

 

 

生命が誕生してからの悠久の時間の中では、進化は猛スピードで行われていること。

 

身体とは、決して工業製品のように最初から最後まで何らかの目的に沿って設計されたのではないということ。

 

時にミスを重ね、器官によっては偶然によって当初の目的からはかけ離れた機能を備えるに至っていることなど、

 

筆者は動物の遺体の解剖を通じて、生命がたどってきた5億年の進化の旅路に迫っています。

 

 

例として、本来骨とは身体を支持するためのものではなく、リンとカルシウムの貯蔵庫であったこと、肺とは呼吸器ではなく、魚の浮き袋であったことなどを紹介しています。

 

 

それらを面白おかしく紹介するだけならば、本書はただの「ためになるエキサイティングな科学読み物」ですが、筆者は四足歩行から二足歩行への劇的な変貌を遂げた人類を、「五十キロの身体に一四〇〇ccの脳をつなげてしまった哀しいモンスターなのである」と述べ、「次の設計変更がこれ以上なされないうちに、わが人類が終焉を迎えるという、哀しい未来予測」をしています。
加えて終章では我が国の学問を巡る絶望的状況にも警鐘を鳴らしています。

 

 

あらゆる生き物の身体を観るときに、単に「この筋は足を挙上して…」という点的理解をするのではなく、それが歴史的にどのような目的で設計され、どういう意味があって今の形を持つに至ったのか、一つ次元を加えて考えるようになるはずです。

そして、身の回りにいる魚、鳥、イヌ、ネコ、サル…あらゆる動物が5億年の謎に迫るヒントを与えてくれることを教えてくれる一冊でした。

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肌と心と脳みそと

 『鍼灸忍法帖』を名乗りながら、いつも「翻訳忍法帖」や「中国語忍法帖」なので、たまには羊頭狗肉をやめてみます。

『子供の「脳」は肌にある』(山口創・著)という本を読みました。

著者はたくさんの実験、研究を引用しながら、思いやりのある心を育てるためには、幼児期にたくさん肌に触れられるという体験が必要だと主張します。

幼少期にたくさん抱っこしてもらい、求めるだけの愛情を注いでもらった子供は、自分が受け入れられ大切にされているという自信を強めることができるので、むしろ依存性を低め、感情的にも安定し、対人関係においても積極的になる傾向がある、ということです。

これだけ読めば、単なる子育て指南書だと思われるかもしれませんが、「肌」というテーマに関して示唆に富む記述が数多くありました。
一番興味を引かれた部分だけを引用します。

肌着というのは、それを着た直後ならば柔らかさを感じるが、十分も経つと意識することはなくなる。ところがその刺激は、皮膚を通じて脳に影響を与え続けているのである。目に見えないわずかな着心地の悪さが、無意識のうちに脳に悪影響を与えていることになる。(p61)

意識に上らないほどの弱い刺激が続けて入力されることで、身体が変わりうる。
頭をよぎったのはローラー鍼と、皮内鍼という鍼です。
ローラー鍼は皮膚の上をコロコロと転がして使います。子供用の鍼として使われるという認識が多いようですが、反応点治療では大人の治療にも活用します。
皮内鍼は、極小の鍼を皮膚の特定の部位に貼り付け、テープで固定するものです。頭の部分は竜頭になっているので身体に潜り込むことはなく、貼り付けている最中に痛みも感じません。

近年では皮膚の研究が進み、それとともに皮膚という視点から鍼が効くメカニズムを科学的に解き明かす動きも活発になりつつあるようです。

人体最大の『臓器』であり、身体に与えられる刺激を受け取り、自ら「考え」活動していることがわかってきた皮膚、そこにアプローチすることで治療効果を引き出す鍼灸。
今後もこの分野がいわゆる「伝統医学」の枠から飛び出し、新たな世界を切り開いていくであろうことを思うと、胸が高鳴ります。これがときめきというものでしょうか。

あまりにもおもしろそうすぎて、自分の筆力でこのワクワクを表現しきれないのがもどかしい。今後もお伝えする努力をしていきたい。

本書では他にも身体をほぐすことの心に対する作用、人に触ってもらうことの意義など、多くのヒントをもらいました。

関連する書籍として
『第三の脳』(傳田光洋・著)なども読みやすくておすすめです。



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贅沢

『中国に学ぶ』(宮崎市定・中公文庫BIBLIO)という本を読んでいます。
面白い一節があったのでご紹介します。

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さる男が貧乏暮らしにつくづく愛想をつかし、一心不乱に神様に呼びかけて願かけした。

「決してぜいたくは申しませんが、どうかその日その日の暮らしにだけ困らないように、一生ご加護くださるようにお願い申します。金持ちになろうなどとは夢にも思いません」

あまり熱心に祈るので、神様が姿を現したが、さて、きっと形を改めて申すよう、

「なんとお前はぜいたくなことを申すヤツじゃ。過ぎたこともなく、足りないこともないという暮らしは、万人が望んでもなかなか達せられない生活の極致であるぞよ。それは神仙の境地だ。そんな高望みをすてて、金持ちになりたいとか、それがいやなら、今のままの貧乏でいたいとか、考え直して改めて願かけするがよいぞ」

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(引用おわり)

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プロフィール

HN:
岡本悠馬
性別:
男性
職業:
鍼灸師・中国語翻訳者/医療通訳・講師
自己紹介:
神戸市須磨区妙法寺・南天はり灸治療院の院長・中国語翻訳者です。
2007年~2009年まで在外公館派遣員として中国上海に勤務。現在は翻訳者として活動しています。鍼灸では神経生理学に基づく治療を行います。反応点治療研究会所属。神戸市外国語大学非常勤講師。

手がけたもの:政治、軍事、経済、医薬、ソフトウェア取扱説明書、料理、紀行文、芸術展パンフレット、観光案内、中国語学習教材、古文(唐詩・宋詞など)、現代小説等。

メールアドレス:
okamotoyum★gmail.com(★を@に変えて送信)

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